近年、ビジネスやスポーツ、教育などの幅広い分野で取り入れられている「コーチング」という手法があります。
特にビジネスにおいては、組織マネジメントから個人の能力を引き出すことまで様々です。
では、コーチングは資格があればできるの?
コーチングってそもそもどうやってサポートしていくの?
そんな疑問に答えるために今回はコーチングとは何かをまとめていきます。
目次
コーチングの定義
コーチングを一言で表現すると「相手に自発的な行動を促進するコミュニケーション」となります。
コーチングをする上での目標は大きく4つで、
- 新しい気づきをもたらす
- 視点を増やす
- 考え方、行動の選択肢を増やす
- 目標達成のために必要な行動を促進する
これらを達成するために、相手(クライアント)と対話をしていきます。
求められれば知識を与えますが、自身の経験・体験に基づいて相手の可能性を広げていく…という手法を取ります。
常に立ち位置は隣にいて、向上のために促したり、考えたり、引き出したりなどのサポートを行います。
あくまでこちら側(コーチ)が先導するのではなく、相手が主体的に行動するということが重要になってきます。
そのために課題を出したり、問いを出して自身に考えてもらったり、相手を高めるためのプログラムを組み立てて、相手が目標を明確化し、実践できるためにアプローチをしてくれます。
コーチングと対になっているもので「ティーチング(teaching)」と呼ばれる手法もあります。
コーチングが相手に主体的な行動を求めるのに対し、ティーチングは「teach」とあるとおり、教えるという要素が強いです。
いわゆる学校教育のように一方的に教えるというのがティーチングの良い例ですね。
相手に考えさせるか教えるか、ここがコーチングとティーチングの大きな違いです。
ただし、どちらが良いか悪いかではなく、その時々でコーチングが良い場合とティーチングが良い場合があるので、上手く使い分けましょう。
コーチングの歴史
スポーツなどでは「コーチ(coach)」という言葉よく使われていますが、このコーチという言葉が初めて出てきたのは西暦1500年代と言われています。
元々ハンガリーで馬車が製造されていて、馬車をコチ(kocsi)と呼んでおり、それが語源になったと言われています。
そしてその馬車は当時「大切な人をその人が望む所まで送り届ける」という意味があり、そこから派生して「人の目標の達成や到達を支援する」という意味でコーチングという言葉が使われるようになりました。
日本では1997年にコーチ・エィという会社が日本初のコーチ養成機関としてコーチングを学ぶ「コーチ・トレーニング・プログラム(CTP)」を提供したのが始まりで、そこからコーチングが広がっていきました。
現在は様々な業種がコーチングを取り入れるのはもちろん、部下の育成や組織開発や人材開発、問題解決など役割もどんどん広がっています。
またマンツーマン形式から研修、セミナーなどコーチングの形式も多様化しています。
コーチングの基本スキル
コーチングは基本的に「傾聴」と「質問(問い)」、「承認」を駆使します。
コーチがクライアントに対し、質問をする。
クライアントはその質問に対して答える。
これを繰り返していくのが基本の流れです。
傾聴。聞くことで信頼関係を作る
傾聴のポイントは、
- 相手をありのまま受け入れる「需要」
- 相手の話を聞いて「共感」する
の2つです。
コーチがこれらを徹底することでクライアントは、
- 自分の考えや自己理解をより深めることができる
- 自主的な言動ができるようになる
というメリットがあります。
コーチとクライアントのこれらの姿勢を通じて
- クライアントがコーチに心を開きやすくなる
- コーチとクライアントの間に信頼関係ができる
- 信頼関係を通じて、クライアントが自ら道を切り開くことができる
これらができるようになるのが傾聴の目的でもあります。
質問。クライアントが気づきを得る
質問はクライアントに対し、気づきを得られる機会として利用します。
- 「どんな状態になればその問題が解決したと言えますか?」
- 「その状態になるためには、まず何をすればいいですか?」
例えばこのような質問ですね。
このように質問をするには、傾聴もしっかりできていることが前提です。
質問という言葉だけ見れば、もしかしたら会社でもやっていると思うかもしれません。
ただ、コーチングの質問と社内で普段行っている質問は違うのです。
会社内の場合は上司が答えを言うこともあるでしょうが、コーチングでは原則コーチからクライアントに対して答えを教えることはありません。
少し時間はかかりますが、クライアントが自分で答えを見つけることを大事にしています。
じっくり考えさせることですね。
また気をつけなければいけないのが、質問が「詰問」にならないようにすること。
- 「なぜできなかったの?」
- 「どうしてそれをやったの?」
などのようにクライアントに対して圧力のかかるような状態ですね。
こう責められるような雰囲気になると、人は本能的に防御的になり意欲をそがれたり、心を閉ざしたりしてしまいます。
コーチングじゃなくても、こういう雰囲気は嫌ですよね。
質問の内容もそうですが、言い方にも気をつけなければいけません。
承認。分かりやすく具体的に褒める
ここで言う承認は相手の長所を見つけたり、分かりやすいように褒めるというスキルのことです。
褒める際は必ず相手の良い所を見つけてそれを分かりやすく、具体的に褒めるようにします。
この辺は、褒められた人は褒められた言動、行為を繰り返したくなるという心理も利用しています。
具体的な褒め方としては、
- YOUメッセージ(あなたは素晴らしい)
- Iメッセージ(私は勇気づけられた)
- WEメッセージ(上司も喜んでいた)
というように、誰か主語をつけて褒めるやり方もあります。
ただしコーチングにおいては、褒める頻度をコーチングが進むほど少なくして言ってここぞという時だけ褒めるようにします。
あまり褒める回数が多すぎると、褒められることに慣れてしまって効果も半減しますからね。
コーチングの3つの基本
「傾聴」「質問」「承認」
これら3つを踏まえた上で、さらに以下の3つの基本も抑えておくとコーチングの効果がより高まります。
インタラクティブ(双方向)
コーチングはティーチングと違い、コーチ側が一方的に話すようなことはほとんどありません。
一方でビジネスにおいては社内の上司と部下といった時に、上司が一方的に部下に対して指示を出したり従わせたりといったことがあります。
日常会話ならとにかく、このように立場の上下がはっきりしているとコミュニケーションにおいても上下関係が少なからず生じることがあります。
コーチングにおいては、この状態は良くはありません。
「会話のキャッチボール」なんて言葉もありますが、まさにそのようにコーチとクライアントの双方向のコミュニケーションがコーチングにおいては非常に重要になってきます。
オンゴーイング(現在進行形)
コーチングは一回きりで終わりではなく、数か月~数年というようにある程度の期間は継続するのが原則です。
コーチングは一度受けたからといって劇的に何かが変わったり、成果が出るわけではありません。
コーチングを受けたことに満足するのではなく、
- コーチングを受ける
- コーチングの内容をもとに、実践・行動する
- フィードバックを得る
- 改善する
- さらにフィードバックを得る
これを繰り返していきます。
継続することですぐにとはいきませんが、着実に少しずつ変化していきます。
テーラーメイド(個別対応)
従来の人材開発は全員に対して同じ方法を取ってきました。
しかし今は、一人一人価値観や合うやり方などが異なっており、全員が全員同じ方法を取っても成功しないということが分かってきました。
例えば「褒められて伸びる」タイプの人がいれば、「叱られて伸びる」タイプの方もいますよね。
コーチングは1対1で行うのが基本ですが、この時もある人で成功したやり方がまた別の人で成功するとは必ずしも言えないということを踏まえて行うことが重要になってきます。
こんな人はコーチングを受けてみよう
- 成長意欲の高い人、組織
- ある程度のスキルや技術がある
コーチングはある意味クライアント次第な所もあるので、クライアントのモチベーションは重要です。
ただし、現状は低くても高めたいという欲があれば大丈夫です。
またスキルや能力はクライアントに教えるのではなく、クライアントの中にあるものを引き出すのである程度のスキルなどは必要になります。
逆にスキルや能力が低い場合は、教える要素の強いティーチングの方が適任です。
コーチングを通じて自分で答えを見つけ出す
- コーチングとは「相手に自発的な行動を促進するコミュニケーション」である
- 日本に導入されてからは20年ほど
- 傾聴と質問(問い)、承認がコーチングの中ではよく使われる
- インタラクティブ、オンゴーイング、テーラーメイドの3つの原則がある
- 意欲があり、能力やスキルがある人はコーチングに適している
以上がコーチングの概要です。
コーチングは教わるものではなく、自分で気づいたり自分の中にある答えを見つけ出すものです。
コーチングを通じて自分や組織をより良くしていきましょう。